おじさんは目が見えない。音の世界で生きている。裸足のおじさんは10人のミュージシャンと音のひらめきを楽しんでいた。前日のメールでおじさんを知り、ブルックリンにあるパイオニアワークスという会場にでかけた。レンガの建物の中は広い空間で、広々とした庭があった。おじさんの場所はステージに向かってセットされていて、10人のミュージシャンと向かい合って音の会話を繰り広げていた。おじさんのひらめきはステージの横にあるスピーカーから10人のひらめきと一緒に聴こえてくる。
彼らの閃き合いは、心に眠っている記憶や想像を呼び起こす走馬灯のような世界だ。でも活きがよく生活感に溢れている。ICEのメンバーたちは今の音の感覚を捉えて発信する卓越したグループだがとても身近に感じるし、私たちの生活の延長にその音がある。日常で目には見えない一瞬でも心をとらえては消えていく世界が自分の中にあった。
この日は他にもたくさん作品が披露されたが、リックさんの作品が面白かった。数人のミュージシャンがそれぞれ、プロローグと実際言葉で話し始める。話してる途中から、楽器で音を出し始める。
Wet Ink 2022-23 AIRs: Rick Burkhardt
だいたいこんな感じだ。最後は言葉が抜け、その先にあった音のかけらが空間にくっきりと表れて、まるで2024年のカンデンスキーのコンポジションシリーズのようだった。他にもいろんな作品が披露されたが、どれも捕らわれた心を体を解き放つ。知らない感覚に触れているようでとても身近だ。どれだけ現世が不自然に整えられた代物かを実感する。
Program
Fay Victor: SafeHarbor Shade for voice and bassoon
Isabel Lepanto Gleicher: Del Lago for open instrumentation
Ingrid Laubrock: Koans (selections) for voice and cello
Rick Burkhardt: Prologue for flute, percussion, violin, cello
Nicole Mitchell: Birdsongs for Equitable Togetherness for open instrumentation
(Intermission)
Earl Howard: Boson1 (2024, World Premiere) for electronic performer and ten musicians
今を音で捉える人々は未来を音で導く人たちだ。現世をかけ離れているようで、今を生きる人々には大変ありがたい。